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「来た猫、行った猫」 森 南海子
脚が極端に短くて、それでいて思い切り肥った白っぽい猫は、両手両脚を上にかかげた奇妙なかっこうで本格的なねむりにはいっている。ときどき手がピクピクする。仰向けで眠る赤塚不二夫家の猫の話を読んで驚いたことがあったが、その態の猫がいま私のそばに居る。それも広い部屋のど真ん中でその格好なのである。
そのすぐ横には、もう一匹のキジ猫がこれも半ば上向きで寝息をたてている。 いつもかばい合って二人で生きている。
私はこの兄弟猫に救われた。名はチャオとコモ。娘が命名した。本当は何匹でも欲しかった。寂しさをなんとかまぎらわせたいという不純な動機からであった。
私はプスという名の黒のやせ猫と七年半を暮らしたが、その猫を失った。去年の夏の終わりであった。まだ猫はそれほど老いているふうもなく、熱い眼差しを互いに交わしながら共に生きてきたのだが、暑さにぐったりした日が続き器から食べてくれないときは、食事を掌にのせて与えた。独りきりで人間家族の中で、生きるさまが切なかった。
夜は間接冷暖房の部屋に寝てもらっていたが、昼間がいけなかった。私が外出するとその冷房は切られてしまい、プスは涼を求めて外へ出た。私の家は蚊や蜂や翅の棲む中にある。「涼しいでしょう」と人は言うが、家が古すぎて冷房もきかない。家そのものがテント風なのである。雀を捕り、ときにネズミを捕り、子蛇を連れて帰った。見事な野性であった。その反面、静かな鋭い視線を私にだけ送り込んできて、私を狂おしくした。私が病んでいるときは胸のうえにかがみ込んで、かたわらに付き添ってくれた。だから家族はプスのことを |